古賀真輝『数学の世界地図』をご恵投いただきました

数ヶ月前に上梓した『船旅』を古賀先輩に献本したところ,先日『数学の世界地図』をご恵投いただきました.誠にありがとうございました.

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私自身は数学を専攻したわけではありませんが,僭越ながらいくつかの感想を記させていただきましょう.

まず何よりも,これが言えると思います.普通の数学の一般書では,数学基礎論は無視されるか謎のトンデモ解説が付けられるかのどちらかである印象があったので,「代数学」「幾何学」「解析学」「数学基礎論」「応用数学」という並べ方をしているのは非常に特徴的だと思います.

これも間違いないと思います.数学基礎論と言ったらモデル理論・集合論・計算理論・証明論に分けられるのが一般的でしょうけれど,ここではとても面白い章立てとなっているので楽しんで読めるのではないでしょうか.ちなみに,岩波『数学辞典 第4版』だとこんな感じです:

  1. 数学基礎論 (199)
  2. 形式体系の意味論 (124)
  3. 形式体系と証明 (123)
  4. 計算可能関数 (118)
  5. モデル理論 (462)
  6. 安定性理論 (13)
  7. 超準解析 (303)
  8. 順序極小理論 (180)
  9. 公理的集合論 (136)
  10. 強制法 (95)
  11. 巨大基数 (104)
  12. 記述集合論 (84)
  13. 再帰理論 (144)
  14. 決定問題 (126)
  15. 次数の理論 (164)
  16. 構成的順序数 (133)
  17. 証明論 (192)
  18. ゲーデルの不完全性定理 (128)
  19. 算術の超準モデル (153)
  20. 型理論と $\lambda$ 計算 (64)
  21. エルブランの定理と導出原理 (34)
  22. ノンスタンダード論理 (356)
  23. 逆理 (89)

これも最後以外は同意です.非常に簡潔かつ正確に伝えるべきことが適切な配慮とともに書かれていたので,やはり教育的な伝え手・書き手としての能力の高さが窺えました.

まあこういう意見があるのはわかりますが,趣旨を鑑みるとだいぶ癖の強い紹介になっちゃうので,今のままの方が遥かに良いだろうと個人的には思いますね.

もう一つ重点的に読んだのは統計学の章ですが,最近やたらと巷を騒がせがちな仮説検定の箇所も適切な説明になっていたので良かったです.そういえばこの前,M先生が古典的統計理論における仮説検定の捉え方は難しいとおっしゃっていたので,いやいやM先生,やっぱりベイズ統計学じゃないとダメですよと布教しておきました.その点で言うと,やはりベイズ統計学にももっと紙面を割いて欲しかったという願いはあります(冗談です).

真に願わくば,誰かがこの名著に引き続いて『生物学の世界地図』か『言語学の世界地図』を作ってくれないかなと夢想するばかりです.でもちょっと思うのは,『天文学の世界地図』はだいぶ滑稽なタイトルだろうなということですが,その場合でも必要に応じて保存拡大 (conservative extension) を取ればよいといったところで,拙い感想を終えようと思います.