血管抵抗と血圧とヴォイス

医学書で行間を埋めるっていう行為を要求されるのはなかなか新鮮な気分だった.昨日考えていたのはこの一節:

血管床の抵抗の増加・減少は,その血管床内の血管内径の縮小・拡大を示す.しかし,この血管内径の変化が,どの部分で,どのような機序で起こったか——例えば血管平滑筋緊張の増加による能動的収縮か,あるいは壁内外圧差減少のための弾性復元による受動的縮小か——を一般的にいうことはできない.ただ,抵抗の変化と血圧の変化が同方向に起こったときのみ血管径の能動的変化が起こったであろうと推量し得る. 本間研一ほか(2019)『標準生理学 第9版』医学書院,p. 590.

正しいかはわからない(まだ専門家に確認していない)けど,たぶんこれで筋道は通りそうだなと思ったことを忘れないうちにメモしておく.流体力学を完全理解していたらもうちょっと美しく書けるんだろうけどな…….

まず,血圧とは「大気圧を基準とした血管内血液の側圧」であって(ところで側圧は静圧ともいう),

その機能には

  1. 血液を流す作用(真の血圧血液駆動圧 (BP; blood pressure) という)
  2. 血管壁を押し広げる作用(壁内外圧差 (TP; transmural pressure) という)

の2種類があり,特に立位の場合は高さによる静水圧がかかるせいで,たとえば足背動脈だとBP = 98 mmHgに100 mmHgが加わってTP = 198 mmHgに,たとえば脳だと30 mmHgが引かれてTP = 68 mmHgになってしまう.

ここでオームの法則の類似としてポアズイユの法則というのがあり,血流量 $Q$,血管の半径 $r$,血管の長さ $l$,血管の両端の血圧差 $\Delta P$,血液の粘性率 $\eta$ に対して,$$Q=\frac{\pi r ^ 4}{8\eta l}\Delta P\quad\biggl(\text{cf.~}I=\frac{1}{R}V\biggr)$$が局所的には成り立つとみなせる.つまり,血管抵抗は$$R=\frac{8\eta l}{\pi r ^ 4}$$となる.この表式が「血管床の抵抗の増加・減少は,その血管床内の血管内径の縮小・拡大を示す」という第一文目を説明する.このとき,

  1. 血管平滑筋の緊張が増加して,物理的に無理やり $r$ が小さくなり,血圧が上昇しながら,能動的に収縮する.
  2. 壁内外圧差が減少,すなわち(血管外圧が大気圧に等しく一定であるとみなせる範囲では)血圧が降下して,外力が減少することによりどんどんと元の細い状態に戻っていき,受動的に縮小する.

の2種類のメカニズムがあって,これが第二文目と第三文目の言っていることだろう.そういえば,どうでもいいけど,「壁内外圧差減少のための弾性復元」って現代日本語では「壁内外圧差減少のせいで弾性復元する」よりも「壁内外圧差を減少させるために弾性復元する」と読む方が一般的だということに,昨日気がついた.

能動的なメカニズムの方は,少し前のこの箇所にも繋がっている:

ポアズイユの法則から,圧条件が一定なら血管内径の変化は血管長の変化よりもはるかに大きな影響を血流量に及ぼすことがわかる.血管を剛体の円管とみなし,血流がポアズイユの法則に従うものとすれば,ある臓器の血流量 ($Q$) 需要が高まったとき,この要求を満たす($Q$ を大きくする)方法に 2 つあることがわかる.血管の半径 ($r$) を大きくするか,またはその臓器を挟む動・静脈血圧差 $(P_1-P_2)$ を大きくするか,のいずれかである.循環系の適応としては,通常まず前者が起こり,血管平滑筋の緊張が低下して血管内径が増し,これによって多量の血液が供給されるのである. 本間研一ほか(2019)『標準生理学 第9版』医学書院,p. 589.

ところで,これを書いている過程でこういうものも見つけた:

www.youtube.com